5th album 「エレクトリック線路WAY」

その列車ジャケ_small

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LINER NOTES


20年以上のキャリアを誇る社会人バンド、秘密列車が約1年ぶりに5枚目のアルバムをリリースした。おめでとう。おつかれさま。よく頑張った。そんな言葉が浮かんでくる。

バンドがアルバムを出すということは大変なことだ。不特定多数の人間が集まってモノづくりをするということは、基本的に大変手間のかかる作業である。ましてや社会人バンドともなれば、本業のかたわら制作を行わなければならず、その苦労は想像に難くない。

それでも彼らは1年という期間で作品を作り上げた。それも、かつてなく挑戦的な形で。

これまでの秘密列車を知っている人であれば、1曲目の『ムーンライトパレード』からエレクトロニックでミステリアスなダンスサウンドが流れ出すことに戸惑いを覚えるかもしれない。そう、このアルバムは、これまでオーソドックスなフォーク・ロックをかき鳴らしていた秘密列車が、大々的に電子音を導入した作品なのだ。

バリバリのライブバンドが電子音を導入した結果、服を着ているのではなく「着せられている」ようなヘンテコな作品になってしまうことは、ままある。対して本作では、(失礼を承知の上で言えば)意外なほどにそういった違和感がない。むしろフィジカルな演奏がエレクトロニクスと見事に融合していると言っていいだろう。

戸惑いを感じながらもアルバムを聴き終わる頃には、この変化は彼らの進化であり、かつ必然的なものであったことがご理解いただけるかと思う。

秘密列車は変わったバンドだ。核となるメンバーはいるものの全体の人員は固定されておらず、時によって増えたり減ったりする。曲作りにおいても、関係者全員が作詞作曲を課されており、そのテーマやジャンルはくじ引きによって決められる(その辺りはオフィシャルサイトに掲載されているレポートに詳しい)。中でも問答無用で作曲者が歌わなければならないという点は特筆に値するだろう。このように通常のバンドとは制作/運営の手法が全く異なるのである。

事前にギターの高松さんにうかがったところ、基本的には「楽しければいい」「作りたいから作る」「全部自己満」というスタンスらしい。なるほど、そういうことであれば、前述したような制作方法もむしろバンドを楽しむための、もしくはバンドを停滞させないための工夫と考えられる。いずれにせよ、高松さんの語ったスタンスは彼らの本質を捉える上で重要な要素である。

思うに、本作では『スプレー』こそが彼らの在り方を端的に表している曲だ。この曲はキーボードのマキコさんが生まれて初めて作った曲(!)らしく、はっきりと言ってしまえば曲も歌詞も稚拙だが、言葉を換えると研磨されていない自然な姿のままの原石のようでもある。それはモノづくりを最も苦しく、そして最も楽しく感じる瞬間の記録だ。たとえ未熟であっても、このような曲を数あるデモ音源の中から選ぶところにこそ、秘密列車らしさを見いだせる。筆者はこの曲が大好きだ。

あるいは『深海サバイバー』だ。この曲も先述したスタンスのようなものが歌詞の中に現れている。

  煌めく 泡を見上げて 今まで 生き残ってきたんだ

  時代に取り残される日々で この世界の美しさに気づいて

  月明かりも届かない 極彩色の暗闇で

  湿った身体で踊り明かすんだ

  (中略)

  この海の底では 無敵

時代遅れだったとしても、月明かりが届かなくても、暗闇の中で踊り明かす自分は無敵。引きこもり的な世界観だが、はっきりとした自己認識のもとで力強い自己肯定が行われており、楽曲の安定感も相まって、聴きながら思わずうなずかされる説得力がある。

これらの要素を踏まえて本作に触れると、装いは違っていても本質は全く変わっていないのだと思えてこないだろうか。

もう一つ本作を聴いていて気づいたことがある。それは変化という事象そのものに対する姿勢だ。

表題曲『エレクトリック線路WAY』では、新しい一歩を踏み出す前の不安と踏み出した後の名残惜しさが歌われており、それはそのまま本作を作るにあたっての彼らの心境が表現されていると見てよいだろう。そして”少しずつ壊れかけて”いながら未来へと進んで行き、視線は”色づいた思い出達”の方へと向いているこの曲は、コロナ禍における昨今の情勢とリンクする部分があるのではないだろうか。

どうなるか分からない今を歩んでいる最中で、突然我々は変化を強要されている。毎日暗いニュースが繰り返されていながら、未来は良くなるはずだと無邪気に信じることは難しい。それでも我々は変わっていかなければならないのだ。

『エレクトリック線路WAY』で主人公はかつての記憶に思いを馳せている。だが彼は未来へと進む列車に乗り込んだのだ。その勇気こそが彼の望む未来へと繋がっている。そう、我々には勇気が必要なのだ。

2020.12.23. 音楽なんでも屋 Watasino (>Twitter)




青木(Vo,G)による全曲解説


01.「ムーンライトパレード」
Lyrics,Music:青木
Vocal,Guitar,Programing:青木/Guitar:高松/Bass:横関/Keyboardsr,Chorus:狩野M,/Programming:狩野F

アルバム1曲目を飾る※1壮大でスペイシーなダンスナンバー。乱歩の夜光人間みたいな怪奇的世界観から、ひとりぼっちの宇宙遊泳までスケールが目まぐるしく変わります。参加メンバーのお洒落なプレイも光る!



※1/本アルバムの制作作業は、以前青木が作ったこの曲のデモトラック(Macの不調でデータが消失)をイチから作り直すことからはじまった。


02.「イエローワールド」
Lyrics,Music:青木
Vocal,Guitar,Programming:青木/Programming:中村

白だ黒だと言い争っている間に、黄色が世界を席巻し始めている。気付いた時にはもう遅い。最悪な奴等も目を覚ましてしまった。そんな社会風刺ホラー。中村くんのミックスセンスが光る※2、ダークなダンスナンバーに仕上がっています。



※2/この曲は青木がほぼすべてのトラックを一人で制作。それを元にミックス担当の中村氏が若干のアレンジを加えている。


03.「遙かな故郷」
Lyrics,Makiko,Mitsuko/
Music:狩野M,Mitsuko,青木,狩野F

Vocal,Chorus,Keyboards:狩野M/Vocal,Chorus:Mitsuko/Guitar:青木/Bass:横関/Programming:狩野F

◯田ヤスタ◯氏の影響色濃い王道エレクトロポップ。どこか郷愁を誘う和風な旋律と歌詞の響きが印象的。謎のゲストMitsukoさんのぶっ壊れたワールドも相舞って、不思議なオリジナリティに溢れた名作ではないでしょうか。スラップベース録音に関し、皆でダイゴロさんの指が育つのを一週間くらい待つという不思議な待ち時間が生まれたのもこの曲※3



※3/アレンジを煮詰めるうちに、急にスラップベースを入れる案が浮上。しばらくベースを触っていなかったダイゴロ(横関)は、激しいスラップ奏法に耐えられる硬い指先を手に入れるべく、自己鍛錬の旅に出たのであった。


04.「僕の Bang Bang」
Lyrics,Music:藤倉
Vocal,Guitar,Keyboards,Programming,Chorus:藤倉/Guitar, Programming:青木

瞬くんワールド全開のお洒落R&Bナンバー。そもそも全然エレクトロではないですが。彼も私と同じく懐古主義者なので、ダブっぽいリズムトラックで歩み寄りを見せているところが可愛いですね。複雑なフレーズが美味い匙加減で融合してノリを生み出しています。「瞑りましょうぞ」とかいう不思議な言い回しはどっから来てるの?※4



※4/瞬くん曰く、歌詞は言葉の言い回しのリズムとかニュアンスで決めることも多いとのこと。


05.「禁煙天国 album Ver.」
Lyrics:青木,横関/Music:青木
Vocal,Guitar:青木/Guitar,Chorus:高松/Bass,Chorus:横関/Keyboards,Chorus:狩野M/Drums:狩野F/A.Sax:早瀬/Chorus:藤倉
Programming,Chorus : 中村修人


既発シングルのアルバムバージョン。新たに付加された高松さんの複雑なギタートラックがカッコ良い。もうとにかくこの世界的な禁煙ブーム勘弁して欲しいです※5。喫煙フリーな県とか作ってくれませんかね、引っ越すから。



※5/この曲の制作時(2013年)は、秘密列車全メンバーが喫煙者だった。現在は、煙草を吸わないメンバーも増えている。


06.「スプレー」
Lyrics,Music:狩野M
Vocal,Keyboards,Programming,Chorus:狩野M/Guitar,Programming:青木

マキちゃん初作成※6の衝撃的迷曲。こんなリアルな女学生のひとコマを切り取るセンス凄いですね。物の見方が独特なんでしょうね。初期衝動のパワーが詰まってる。これからも多くの曲を作ることになると思いますが、いつまでもこの曲の衝動を持ち続けて欲しい。



※6/2017年頃、彼女は秘密列車恒例の作曲合宿に初参加。そのときに生まれて初めてちゃんと作ったのがこの曲である。


07.「深海サバイバー」
Lyrics,Music:狩野F,青木
Vocal,Chorus,Programming:狩野/Guitar,Chorus:青木/Bass:横関

狩野ちゃんの曲に私が展開を足した、葉桜テンプテーション※7以来の共作。深海サバイバーっていう世界観が往年の狩野ちゃんぽくて好き※8。ネガティブなのに前向き。サウンド面では職人技が随所に光る。エレクトロでお洒落なダンスナンバーに仕上がっています。



※7/前アルバム「決別のステーション」収録曲。
※8/ドラム担当の狩野は、以前よく暗い曲を作っていた経緯がある。現在は芸風が少し変わってきて明るい曲調が多いようだ。



08.「エレクトリック線路WAY」
Lyrics,Music:青木
Vocal,Guitar,Programming:青木/Guitar:高松/Keyboards,Chorus:狩野M/Programming:狩野F

アナログ人間で懐古主義者の自分にとって、今回のアルバムコンセプト※9は自己否定にもつながりかねない重いものだった。でもずっと前からエレクトロの導入が表現の幅を広げてくれるって気付いてた。ただそれを頑なに許さない呪いの様なものがあって、今回を機にいい加減それを打破し、表現を前へ進ませるために書き上げた決意表明の一曲! 意図せずナイアガラ感。



※9/「エレクトロな楽曲を中心に制作する」というのが今回のアルバムコンセプト。秘密列車では初の試みである。



Mix:中村修人(1,2,4,5,6), 狩野F(3,7,8)
Mastering: 中村
Artwork 高松(Boogie Graphix)
Design(CD):USA(Boogie Graphix)
Linernote: Watasino


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