7th album 「マボロシターミナル」(2024)

LINER NOTES
秘密を抱えた列車が行き着いた場所、そして次の行き先
文:Watasino
秘密列車によるニューアルバム『マボロシターミナル』が発表された。前作『脱線(22年)』から2年ぶりとなる7thアルバムだ。コピーによると“今の秘密列車を詰め込んだ「幕の内アルバム」爆誕!”とのことであるが、タイトルトラック『マボロシターミナル』の言葉を借りれば<曖昧なまま繰り返した 無軌道な修正と脱線>の果てに生まれた作品でもある。
結成から四半世紀(!)を迎えメンバーの年齢は50代に突入しながらも、依然として“吉祥寺系 オルタナティブ フォークロック ジャム バンド”の標語のままに進み続ける彼らはいったいどこへと向かっているのか――――。
作品について言及する前に、彼らの一風変わった制作のシステムについて今一度説明する必要があるだろう。一から書くと冗長になるため詳細はこちらの記事に委ねるとして、ここでは簡単に、
●メンバー全員が作詞作曲を行う
●曲のジャンルやテーマはくじ引きで決まる
●作曲した人間が歌わなければならない
という点のみ記載しておく。
このシステムにより生まれる楽曲は様々なマンネリ回避の工夫もあり、年々ジャンルレス化/複雑化していってるようだ。本作でもその傾向は見られ、幅広い音楽性(フォークロック、プログレ、ローファイ、エレクトロ、シューゲイザー、etc…)が全体を彩っている。
しかしながらバンドの中心的な素養と思われる、70〜80年代のニューミュージック/シティポップの香りがうまく全体をまとめる材料となっており、バラエティに富んでいながらも散らかってる印象は全くない。コピーにおける“幕ノ内アルバム”とはうまく例えたもので、このあたりの手腕は流石に歴史あるバンドの職人芸といったところ。
歌詞の面では、曖昧な世のゆらぎを物理学の用語で例えた『さざなみコヒーレンス』、自身を機械だと自虐し続ける『キカイ人間』、花火の夜を瑞々しい感性そのままに描いた『打上花火』、現状へ疑問を抱えながらも抗えないジレンマを叫ぶ『支配された世界』などなど、各人のユーモアとセンスが存分に現れており、歌詞を読みながら聴き込んでも楽しめるだろう。ちなみに筆者のフェイバリットは『マボロシターミナル』と『極楽列車』である。
<今走り出した朝もやの中をため息のせて
誰も知らない名前のない駅から>
さて、秘密列車の最初のリリースは99年発表のEP『名前のない駅』で、上に引用した歌詞はそのタイトルトラックのサビの部分のもの。大切なものを失っても、子どもが大人になることを避けられないように、人生という名の列車は走り出していく――――エモーショナルな歌声が胸にささるこの曲では、そういった類の惜別が歌われている。
あれから四半世紀、あちらこちらへ右往左往しながら(2年前には『脱線』もしながら)行き着いた彼らの今いる場所、それが『マボロシターミナル』という曲なのだ。
『名前のない駅』では<目に焼きついた映像は消えない>主人公も、『マボロシターミナル』では<遠い夏の思い出は夕立に溶けて>しまっている。そして<誰もいない街をさまよいながら もういっそこのまま帰りたくない>という思いも今では<もう誰も辿れない>と戸惑う。『名前のない駅』を“傷心の夜明け”だとするならば、『マボロシターミナル』は“当惑の黄昏”とでも言おうか。
列車の車輪が回りはじめた時に歌われた惜別と、ターミナルへ行き着いた今の戸惑い。そこには同じセンチメンタリズムを見出すことができる……違う書きかたをしよう。
秘密列車は一貫して感傷を歌にし続けている。
常に形を変え移ろうこの世に翻弄されながら、日夜働き、食事をし、想い合い、眠りにつく。そして秘密を列車に託し、曲がりくねった線路を進む過程で抱いた感傷――――それが彼らの歌なのである。
長い旅路を進んでいくには変わらなければならないことの方が多い。例えば先述したシステムがそれだ。そんな中にあっても『名前のない駅』と『マボロシターミナル』の2つを照らし合わせれば、形は変わったとしてもその本質は変わらないことが分かる。そしてそれは両曲の作詞作曲を行った秘密列車のフロントマン・青木の姿勢でもあるのだ。
<もう誰も辿れない
浮かんでは消えるマボロシターミナル
運命線が絡み合ってる
僕等の行き着く場所>
浮かんでは消える幻のターミナル。回りだす車輪と新たに絡み合う運命の線路。そして列車の行く先は――――それは誰にも分からない。今一つだけ確かなのは、このターミナルが彼らの現在地ということ。それだけだ。
Watasino (2024.12.7)
恒例! 青木(Vo,G)による全曲解説
01.「マボロシターミナル」
Lyrics,Music:Aoki / Arrangement:秘密列車
Vocal,Guitar:Aoki / Drums,Programming:Kano / Bass:Yokozeki / Guitar : Takamatsu / Electric Piano,Chorus : Makiko / A Sax : Hayase / Chorus:Shun
本アルバムのタイトル曲。特異な活動方針から、ジャンルや方向性がついつい拡散しがちな秘密列車ですが、各々迂回寄り道の果てに辿り着くのはマボロシターミナルという名の秘密列車であり、実は同じ母体の上でバンドとして成立していると思っています。今回は特にバラバラ加減が目立つラインナップとなっているので、言い訳がましく冒頭この曲で全体を包み込んでいます。
02.「さざなみコヒーレンス」
Lyrics,Music:Kano / Arrangement:秘密列車
Vocal,Synthesizer,Programming:Kano / Guitar : Takamatsu
狩野流のプログレ解釈曲。ジャンルとしてのプログレって定義が難しいんですが、俯瞰的な世界観、変拍子、急展開等のプログレ要素を満たしつつ、何とそれらを打ち込みダンスビートでまとめています。いわば全く新しいプログレッシブダンスが成立している秀作。印象的なフルートも妙にプログレっぽい。
03.「キカイ人間」
Lyrics,Music:Aoki / Arrangement:秘密列車
Vocal,Guitar,Programming,Chorus:Aoki / Drums:Kano / Bass:Yokozeki / Guitar : Takamatsu
秘密列車定番のサラリーマン悲哀ソング。実は10年前くらいの曲で、サイバーなブルースロックを狙いました。ただその二つはそもそも食い合わせが悪いらしく、ずっとミックスに苦労してましたが、最後テンポを上げることで何とか解決しました。歌詞の「口から時々毒ガス吐きます」の語呂が完璧で気に入っています。
04.「朝焼けトリップ」
Lyrics,Music:Kano / Arrangement:秘密列車
Vocal,Programming,Guitar,Chorus:Kano / Bass:Yokozeki / Electric Piano: Makiko
今流行りの打ち込みlofi chill music。女性ボーカルはボカロ、とどこまでも今風。もはやバンドでもないですが、耳障りが良く、妙に出来がいイイのでアルバムバランス的に採用されました。濃いめのラインナップの箸休めにどうぞ!
05.「打上花火」
Lyrics,Music:Yokozeki,Kano,Makiko / Arrangement:秘密列車
Vocal,Piano:Makiko / Drums,Percussion,Synthesizer:Kano / Bass:Yokozeki / Guitar : Aoki
夏の一夜にぴったりな胸キュンラブソング。メンバーそれぞれの思い出にある夏の夜を想起させるらしく、ダイゴロさんは夏フェスで遠くから聞こえてくる様なベースにしたいと最後まで拘ってましたがどうでしょう?やっぱり生ドラムは良い!あとピアノの音色もいい。
06.「極楽列車」
Lyrics,Music:Takamatsu / Arrangement:秘密列車
Vocal,Guitar,Chorus:Takamatsu / Drums:Kano / Bass:Yokozeki / Guitar: Aoki / Organ : Makiko / A Sax : Hayase
高松さん得意のポジティブソングですが、今回は珍しく物哀しさも残る仕上がり。黄昏の世界を憂い、時間と空間を超越する世界観を日常的な視点でさらりと歌っています。天才!演奏面も職人の様に役割をこなしていて、皆んな相当頑張ったと思います。アレンジの方向性は紆余曲折して最後まで難産でしたが。
07.「支配された世界」
Lyrics,Music:Yokozeki / Arrangement:秘密列車
Vocal,Bass,Programming,Guitar,Chorus:Yokozeki / Guitar:Takamatsu / Guitar:Aoki / Drums,Programming,Guitar:Kano / Piano,Electric Piano,Guitar,Chorus : Makiko
ダイゴロさん渾身の先行シングル曲であり、秘密列車初の社会派シューゲイザー。何とメンバー全員がギターを弾いて重ねています。鍵盤物と合間って独特の厚みが出ていますね。とにかく落ちサビのダイゴロシャウト、「何でもがかないのか!」が胸に刺さります。
08.「朝焼けエンドレス」
Lyrics,Music:Aoki / Arrangement:秘密列車
Vocal,Guitar,Programming,Chorus:Aoki / Drums,Percussion,Programming:Kano / Bass:Yokozeki / Guitar: Takamatsu / Electric Piano : Makiko / A Sax : Hayase
ネオソウルを意識して作りましたが、結果いつもの秘密列車っぽい仕上がりに。ただ演奏は皆さん新しい手法を取り入れて頑張ってます。ネオソウルの巨匠DTWのギターを色々勉強しましたが、全然ああならないね。結果我流のダブルストップ止まりですが、頑張りを評価していただきたい。久しぶりに戻ってきた早瀬のサックスも必聴です。
09.「心の鍵」
Lyrics,Music:Makiko / Arrangement:秘密列車
Vocal,Keyboards:Makiko / Guitar,Programming,Chours : Aoki / Bass:Yokozeki / Drums,Programming:Kano / Guitar : Takamatsu
今回珍しく、唯一のフォーク調スローナンバー。雪深い深々とした世界観をマキちゃんが歌うってのがエモいね。最後のカタルシスまで是非聴いていただきたい。往年の秘密列車路線なので、演奏面はお手のものって感じです。
10.「Lets talk about it」
Lyrics,Music:Kano,Yokozeki,Aoki / Arrangement:秘密列車
Vocal,Guitar:Aoki / Drums,Programming:Kano / Bass:Yokozeki
シンセポップのネタもの。出来が良いというか、マキちゃんが異常に気に入ってるのでボーナストラック的に採用しました。アナログ要素が排除され、キャラと違って小っ恥ずかしいですね。全面シンセポップの前作「エレクトリック線路Way」を経てるので抵抗感はあまり無いですけどね。
All songs Mix,Mastering: by Kano
Artwork: Boogie Graphix




